【本の紹介】モンテッソーリ教育(理論と実践)第3章≪後半≫

今日は「現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践」の第3章を紹介します。

本章は長いので前半と後半に分けて書いています。

今日は、後半です。

KTC中央出版

現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践~空想的想像力から科学的創造力へ~

第1章 改革者としてのモンテッソーリと近年における世界のモンテッソーリ教育(早田由美子)

第2章 モンテッソーリ教育の内容・方法の概容と今日の実践が引き継ぐもの(森下京子)

第3章 モンテッソーリ教育の普及と逆境、そして発展-経験主義、ファシズムに抗し、宇宙的視野で生命を尊ぶ子らを育てる-(野原由利子)(⬅今日のブログ)

第4章 モンテッソーリ教育における自己表現活動の特徴

1 モンテッソーリ教育における自己表現活動の理論と特徴(島田美城)

2モンテッソーリ教育における音楽教育の内容・方法とその発展(藤尾かの子)

3モンテッソーリの幼児の音・音楽活動の実践例-横浜・モンテッソーリ幼稚園の取り組み-(島田美城)

4モンテッソーリの美術教育の内容(奥山清子)

5モンテッソーリの幼児のアート活動の実践例(村田尚子)

第5章 モンテッソーリ障がい児教育の理論と実践-保育の中の療育-(木下めぐみ)

第6章 モンテッソーリ教育リバイバルから半世紀を経て見えてきたこと(相良敬子)

第7章 モンテッソーリ教育の遺産と課題

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第3章 モンテッソーリ教育の普及と逆境、そして発展-経験主義、ファシズムに抗し、宇宙的視野で生命を尊ぶ子らを育てる-(野原由利子)(⬅今日のブログ)

≪後半≫

6.アメリカ・プログレッシブ=進歩主義教育運動の普及

モンテッソーリ(実験心理学)は、キルパトリック、デューイによる進歩主義教育運動により、アメリカでの支持を失った。

7.「世界新教育連盟」の活動とモンテッソーリの関わり

世界新教育連盟とは、民間の教育に対する国際組織。ユネスコ設立に大きな影響を与えた。

参加者は、ニール、ドクロリー、ユンク、アドラー、モンテッソーリ、ピアジェ、ワロン、デューイ、キルパトリック、アンナフロイト など

モンテッソーリは、第 1回、6回大会で講演している。

8.アメリカ・エッセンシャリズム=本質主義教育運動の台頭

アメリカでは進歩主義と本質主義論争が活発化。

デューイは、モンテッソーリ教育について「ありふれた経験の材料を素朴に扱わず無視、軽視しており、大人たちが作り出した知的優秀性を表す教材に導こうとしている」と批判している。

これに対してモンテッソーリは、批判に対して算数教具について述べている。

算数は、ものの明確さを分析できる、それが精神を発達させる、としている。

そして「教具は単なる算数の理解だけではなく、深い論理性も発達させる。」と説明している。

9.モンテッソーリの戦時中の活動

モンテッソーリは第一次世界対戦、第二次世界対戦という厳しい戦時下において、平和の大切さと教育の果す役割を述べている。

子どもに地球上に生きる生物、人類の生命の貴重さを感得させる環境と教育を準備する。子どもはそれをそのまま吸収する。

それが人類の平和、地球の平和を希求する人間に育てる。(宇宙教育=コスミック教育)

またコスミック理論と宗教の違いも明確にしている。

10.モンテッソーリの大戦後の活動と著作

第二次世界対戦終結後に、多数の著書出版、講演を行っている。

11.誕生から成人までの発達を見通す教育理念と内容

  • 誕生から約7年間:制限された環境の中で他の人との社会的関係が確立

‐この頃の子どもは事実収集だけでなく事実の原因を発見したがる。

‐ものごとを抽象的に捉えるために想像力が土台となる。

  • 7歳から12歳(思春期直前までの時期):より広い社会において社会的関係を確立することが必要。

抽象的・知的活動のニーズが現れる

道徳観の誕生

‐科学的なことをすべて教えるべき時期

  • 12歳から18

‐この頃の子どもの心は抽象的なレベルにある。

(学習の仕方を3つ提案している)

  • 18歳から成人

‐人格は完成している。

‐所有欲、権力欲に打ち勝たなければならない年齢

12.大戦後の進歩主義教育運動の衰退とモンテッソーリ教育の再生

アメリカの進歩主義教育運動は次第に勢力を失っていく。

その後のヘッドスタートプログラム(経済機会法)は、低所得層の家庭における就学前の子どもの心身が必要とするものに応えるものであった。

そこでモンテッソーリ教育が改めて受け入れられるようになっていった。

13.日本におけるモンテッソーリ教育の受容と課題

日本でもモンテッソーリ教育への支持があったが、モンテッソーリの思想や国際平和思想に対する国粋主義者による排斥、攻撃により退潮する。

倉橋惣三は日本の幼児教育に影響を与えた人物であるが、彼が学んだ教育法のひとつ、モンテッソーリ教育はその後見直されるようになっていく。

14.まとめ

スイスモンテッソーリ協会会長のピアジェは、子どもの段階を次のように分けた。

0~1歳半頃:感覚運動的知能段階=言語的思考以前の段階

1歳半~4歳頃:操作的思考はできない「前操作的思考段階」であるところの「象徴的思考段階」

4歳頃~7、8歳頃:「直感的思考段階」

・7、8~11、12歳頃:「具体的操作思考段階」であり、実際に取り扱うことのできる物事ないし直感的につかむことのできる物事に関する思考の操作的群生体が組織される

11、12歳~青年期:文字や数字を駆使して抽象的思考が可能になる(そして形式的操作思考段階に達する)

遊びに関して次のように述べられている。

・4歳頃までに「象徴的遊び」をするようになるが、その後は「ルールのある遊び」に置き換わる。

続いてモンテッソーリは次のように述べている。

「幼児を象徴的思考段階に長く押し留めすぎているのではないか。こどもはもっと真実の世界へ飛び立ちたがっているのではないか

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第3章はこれで終わりです。

前半、後半に分けましたがとても長い章でした。

モンテッソーリ教育がどのような世界情勢と教育思想の中で普及してきたか知ることができました。

「子どもを観察する」ことがすべての基礎であり、それが人間の各成長段階において適切な教育法を確立する最重要キーワードであることも理解することができます。

「人類に課せられた普遍的価値の追求を断念した、身のまわりの問題解決だけで満足してしまう経験主義に堕しない生き方」と締めくくった著者の言葉は、モンテッソーリ教育の深さを物語っていると思います。