【本の紹介】モンテッソーリ教育(理論と実践)第5章

今日は「現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践」の第5章を紹介します。

KTC中央出版

現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践~空想的想像力から科学的創造力へ~

第1章 改革者としてのモンテッソーリと近年における世界のモンテッソーリ教育(早田由美子)

第2章 モンテッソーリ教育の内容・方法の概容と今日の実践が引き継ぐもの(森下京子)

第3章 モンテッソーリ教育の普及と逆境、そして発展-経験主義、ファシズムに抗し、宇宙的視野で生命を尊ぶ子らを育てる-(野原由利子)

第4章 モンテッソーリ教育における自己表現活動の特徴

1 モンテッソーリ教育における自由と自己表現活動の理論と特徴(島田美城)

2モンテッソーリ教育における音楽教育の内容・方法とその発展(藤尾かの子

3モンテッソーリの幼児の音・音楽活動の実践例-横浜・モンテッソーリ幼稚園の取り組み-(島田美城)

4モンテッソーリの美術教育の内容(奥山清子)

5モンテッソーリの幼児のアート活動の実践例(村田尚子)

第5章 モンテッソーリ障がい児教育の理論と実践-保育の中の療育-(木下めぐみ)(⬅今日のブログ)

第6章 モンテッソーリ教育リバイバルから半世紀を経て見えてきたこと(相良敬子)

第7章 モンテッソーリ教育の遺産と課題

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第5章 モンテッソーリ障がい児教育の理論と実践-保育の中の療育-(木下めぐみ)

1 モンテッソーリの障がい児教育理念やと、その発展

(1)モンテッソーリの子ども観

モンテッソーリが生きた時代には子どもや女性にひどい偏見があった。

そのような時代において、モンテッソーリは“子どもを尊重して子どもの生命を援助する”という子ども観を持っていた。

(2)今日の障がいの考え方

昨今、障がいを個人の問題とするのではなく環境との関係で捉える考え方が広まっている。

そんな中、2001年にWHOが発表した国際生活機能分類(ICF)の意義とは、

障害の有無よりも、生活機能という観点で人生、生活の全体を捉えることにある。

ここでは障がいがあったとしても「自己実現」を目指しており、モンテッソーリ教育の理念と共通性が高い。

(3)保育の中での義務

発達支援には6つのポイントがあるとされる。

①わかる環境を用意する

②活動できる環境を用意する

③表現できる環境を用意する

④仲間関係、クラス関係を育てる

⑤「行動問題」への適切な対応

⑥子どもに伝わるほめ方、叱り方をする

このうち、①~④はモンテッソーリ環境の中に用意されている。

2.事例の紹介

(1)未学習と誤学習

一般的に困った行動とは、暴力的、集中力がない、集団に参加できないといったことがある。

ここには2つ理由が考えられる。

①未学習・・学習していない、教えられていない

②誤学習・・誤って学習してしまっている

大概の「困った行動」は【できないのではなくやり方がわからないだけ】と言われている。

また、その問題行動(困った行動)は、子どもにとっては適応行動であることもある。部屋を出ていってしまう子どもは部屋の中の大きい音が苦手だったり、人をつきとばす子どもは触られることが大嫌いだったりする。

まずは子どもをよく観察し、その子どもが今何に困っているかを知ることが重要である。

(2)食事における発達の姿

子どもの好き嫌いは本能的な警戒心からくるものである。

食事(食材)の出し方、食べさせ方で、食べられるようになるものもあれば、それでも食べられるようにならないものもある。

こだわりの強い子どもは一度学習したものを変えることができないということもある。

いづれにせよ「なぜこうなのだろう?」という気持ちを持ち観察すると、ヒントが見つかるかも知れない

(3)やりたい気持ちを大切に

聴覚が敏感な子どもが、音楽活動の際、耳を塞いだり部屋を飛び出していくことがあった。

しかし、美しい音色の場合はそうではなかった。

音楽活動において、各人がやりたい楽器を演奏するというとき、この聴覚の敏感な子どもは【自ら選び】、それが叶い、自分のパートでそれを鳴らすことができた。

子どもが「やりたい!」と思い、その楽器を担当し、各パートがはっきりした曲により自分の責任を果たせた【できた】につながったのは、最初の一歩「やりたい!」を引き出すことに成功したからである。

(4)好きなことをひろげる

小学校入学時に、支援学級の判定を受けたASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)の子どもの話である。

集団生活が苦手な彼は、モンテッソーリ教育において【好きな活動】については誰よりも素晴らしい能力を発揮した。

このとき彼には「知性が働き」「活動のサイクル(※)」を歩んでいたのである。

モンテッソーリ教育のような「個別活動」を必要とする子どもは世の中には多く存在しており、小学校以外で活動のサイクルを持ち続けられることを願っている

(※)環境の中の活動をやってみせる(教師による提示)。そこから子ども自身が興味のある活動を選び、その活動に没頭する(集中現象)。その集中現象を経験した子どもは満足感・達成感を覚え、正しい成長を遂げていく(正常化)。

(5)選ぶことの難しさ

自己活動の場で、環境の中からなかなか新しい遊びを見つけられない子どもがいた。いつも同じものを選ぶのである。

そこで彼には、彼専用のホワイトボードを作り、彼の好きな教具と紹介したい教具を貼るようにした。(3つほど)

そして、やりたい順に並べるのである。

このことで、部屋の中に何があるかを知った彼は、いつしかホワイトボードなしで自己活動できるようになった。

(6)大人の役割

大人の振る舞いは子ども達に大きな影響を与える

一例である。支援が必要な子どもに対し、とある男の子が、大人の振る舞いを真似ようと「その子のお世話をしてあげる!」と言った。それに対し、「お世話ではなく一人でできるようになるのを手伝っているんだ」と回答すると、その男の子は「ふーん」と答えた。

この時に「それじゃあ、お世話お願いね」というと、男の子の中で「自分は世話をする人。支援が必要なこは世話をされる人」という対等ではない認識が起こってしまう。

このように大人は子どもに常に見られ真似られることを意識した上で、言動をよく考えなければならない。

まとめ

モンテッソーリ教育理念には「障がい児」と「健常児」の区別はない。

脳科学では発達障害は脳の個性ともいわれている。

まずは大人自身が生き生きと子どもと関わっていくことが望まれるのである。

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本章では「モンテッソーリ障がい児教育」というタイトルで、筆者が向き合ってきた事実が実例として述べられています。

モンテッソーリ教育は個々の中にある「伸びようとする力」に寄り添うものであり、障がい児・健常児の区別なく、その伸びようとする力を支援するだけのものであることがよくわかります。

画一化された授業プログラムの中では発揮できない力を引き出すことのできる魅力的な教育法であると思います。