【本の紹介】モンテッソーリ教育(理論と実践)第4章3

今日は「現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践」の第4章3項を紹介します。

KTC中央出版

現代に生きるマリア・モンテッソーリの教育思想と実践~空想的想像力から科学的創造力へ~

第1章 改革者としてのモンテッソーリと近年における世界のモンテッソーリ教育(早田由美子)

第2章 モンテッソーリ教育の内容・方法の概容と今日の実践が引き継ぐもの(森下京子)

第3章 モンテッソーリ教育の普及と逆境、そして発展-経験主義、ファシズムに抗し、宇宙的視野で生命を尊ぶ子らを育てる-(野原由利子)

第4章 モンテッソーリ教育における自己表現活動の特徴

1 モンテッソーリ教育における自由と自己表現活動の理論と特徴(島田美城)

2モンテッソーリ教育における音楽教育の内容・方法とその発展(藤尾かの子

3モンテッソーリの幼児の音・音楽活動の実践例-横浜・モンテッソーリ幼稚園の取り組み-(島田美城))(⬅今日のブログ)

4モンテッソーリの美術教育の内容(奥山清子)

5モンテッソーリの幼児のアート活動の実践例(村田尚子)

第5章 モンテッソーリ障がい児教育の理論と実践-保育の中の療育-(木下めぐみ)

第6章 モンテッソーリ教育リバイバルから半世紀を経て見えてきたこと(相良敬子)

第7章 モンテッソーリ教育の遺産と課題

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第4章 モンテッソーリ教育における自己表現活動の特徴

3モンテッソーリの幼児の音・音楽活動の実践例-横浜・モンテッソーリ幼稚園の取り組み-(島田美城)(⬅今日のブログ)

(1)モンテッソーリ教育の中の音楽分野の位置づけ

日本においてはモンテッソーリが作り上げた音楽の活動プログラムや内容がほとんど実施されていないのが現状である。

(2)モンテッソーリ教師養成における音楽分野の扱い

音楽は言語の一部として扱われる。

言語の教具と同じ原理に基づく仕組み、援助法を用いる。

・幼児期という時期にあわせて具体物、具体的な活動から記号化への道筋が教材化されている。

3~5歳の音楽活動は、<音感ベル><音楽理論><リズム>の3パートに分かれている。

このうち最も早くに実践される<リズム>。

これは線上歩行の延長線上に派生してくる。このリズムが、経験により整理されその後楽譜の読み書きへ記号化される。

(3)学校法人高根学園 横浜・モンテッソーリ幼稚園の音楽の取り組み

横浜・モンテッソーリ幼稚園には、同じ建物内にマリア・モンテッソーリ・エレメンタリースクールがある。

そのため幼児の活動と小学校過程との学びの交流や連続性や展開がある。

音楽のにおいても同様である。

モンテッソーリ教育法の一部として考案された音楽教育の方法、プログラムを実践しており、子どもたちの音楽的レベルは非常に高い。

(4)横浜・モンテッソーリ幼稚園における音楽活動の見学記録

本章は筆者が見学した際の音楽活動について纏められている。

<線上歩行1>

  • ピアノ音楽に合わせておこなう。※音楽をについてはモンテッソーリは非常に細かい指示を出している。
  • こどもは「音楽に合わせなさい」と言われることなく自由に、ひたすら線の上で歩を進めることに集中している。

これはただの線上歩行とは異なり、音楽をへの導入となっている。

<音楽鑑賞>

  • じっと座って聴くのではなく動きながら音楽を味わう。
  • その音楽は、生の歌声、伴奏である。つまり本物であることを追求する。

このような活動は、音楽についての感性や聴覚というよりも「良い耳」の形成につながる

<線上歩行2>ものや灯ったろうそくを持って歩く

  • ホールで音楽が静かに流れるなか子どもたちは歩いている。
  • 時おり小さな声で先生に名前を呼ばれたこどもは列を離れ、鈴を渡されたり籠を頭に乗せたりする。
  • それを落とさないよう集中して歩く。
  • 教師は子どもの精神状態を見極めながら集中を図る。
  • さらに名前を呼ばれたこどもはろうそくを渡される。
  • 子どもは自分に集中しているようでありながら、前の人との感覚や距離に期を配っている。

これは自分の内なる課題や全身のコントロールを楽しんでいるようにも見えると著者は書いている。

<雑音筒>

音合わせに挑戦した子がいた。

しかし、うまくいかず、それを止め<雑音筒>を持ってきた。

これがわからなければここに戻れば良い、という本能がある。

モンテッソーリは、次のように言った。

・子どもには自己教育力がある

・自分の成長のために自分の必要な活動を見つける能力がある

・それについては一生懸命取り組む力(本能)が備わっており自分に必要な活動を自分で選ぶことができる

またモンテッソーリはこのように考えている。

・音楽の前に生活音がある。

雑音筒で耳を敏感にする。

音楽で使われるより洗練された音列はそのあとにくる。

<音階ベル><音合わせ>

年中、年長の子どものほとんどが音感ベルの活動により一オクターブを把握しており、知ってる曲を、耳をたよりに奏でる姿が見られる。

<音感ベル>集団活動

子どもの理解が高まってくると集団活動が可能となる。

8つの幹音のベルをもった8人が、2組向かい合い、ランダムに並ぶ。それぞれの音をよく聞き、同じ音のこどもを探しペアになる。

その真剣な眼差しが美しい。

<音感ベル>の効果

こどもは、ピアノの曲を聞いたときに、自発的にドレミの音階で復唱していた。

<リズム>

モンテッソーリは次のように言った。

・「子どもは音楽を静かに聴くのではなく、音に合わせて動きたい、自分の感じを体で表現したい、そして音楽と動きの一致からくる内的満足を得ることができると、彼らは音楽の一部となる」

そして、この<リズム>とリトミックには次の相違がある。

リトミックでは打楽器でリズムを指示したり動きの形を指示する。

<リズム>は音楽を身体全体で感じ、メロディ、強弱、雰囲気を身体の動きでトータルに表現する。

<リズム>年少時のグループの指導

ホールでは子どもたちはピアノの音楽を感じたままに動いている。

またピアノ伴奏者のほか、もう一人のモンテッソーリ教師が自由にホール内をまわっているが子どもに強制はしない。

走る、歩く、ギャロップ、スキップの4つのリズムの曲が演奏されている。

曲の区切りではピアノが止まる。そのときは子どもは次の音に耳を澄ましワクワクしながら待っている。

「静寂のレッスン」と同じように全身をコントロールするのが嬉しくてたまらないのである。

<リズム>年長児

午後は、年長児のリズム活動が行われる。

年少児のようなモデルとしての先生はいない。音の指示だけで活動している。

歩く、走る、ギャロップ、スキップの基本的ステップを導き出す曲をベースに以下の要素が付け加わる。

・音楽の終止形にあわせて動きを停める練習。(カデンツの遊び)

・音の高低を聞き分けて身体で表現する練習。

・トレモロのような演奏では手はひらひらさせ足は細かく足踏みする

・ピアノを止めて指で数字を出すとその人数で集りフォークダンスのように踊る。

時には民族調の音楽が使用されたり、歩く動作にも速さや雰囲気が異なるといったバリエーションの多さである。

<分離唱の導入>

モンテッソーリメソッドには含まれないが、本学園では活動を分離唱という練習方法を取り入れている。

耳を育てハーモニーで音楽をとらえる練習方法である。

<楽器の演奏>

年長児がハンドベルと<音感ベル>のアンサンブルを行った。

このとき、こどもは好きなベルをえらび音を奏でながら音階順に並ぶ。

そのとき、一人の音があわない。

こどもは再度ベルを選びなおすが、その間、他のこどもは穏やかにしゃべりながら待っているのである。

そして初めてのセッションにもかかわらず、3回目できれいに音をあわせ演奏した。

このようにこどもは自由自在に音楽を作っていける<確実な耳>が出来ているのである。

アンサンブルをやるといった指示以外、先生は指示を出すことはなく子どもたちが考え、やりとげるのである。

<大編成の合奏>

こどもたちは、楽譜もなく、先生の指揮のみで各種楽器を演奏する。

これは1週間で完成した演奏であった。

そして、こどもは「こんなふうに音を出したらきれいになるかなって自分で考えた」と話した。

(5)高根学園の子ども達の中に音楽活動で培われているもの

モンテッソーリの音楽活動には3つの要素が準備されている。

高根学園では音楽活動は極めて実践的である。

美しい音、音楽をたくさん聴く経験をもっている。

そして音感ベルによって音の秩序、高さ、音階を脳に刻み込んでいる。

まずここまでの根幹として【個人としての自己】がしっかりと育っている。

モンテッソーリ教育の中で自分と対話しながら活動を選び決定し繰り返して、終えていくサイクルの中で自己形成を行っているこどもたちには驚くほどのアイデンティティと意志の強さが育っている。

そこに表現したいことがあるのである。

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本章は横浜モンテッソーリ幼稚園の実践が紹介されています。

子育てにおいて、こどもには技術を教え込んだり、言葉での強い注意により行動を統制することが少なくありません。

しかし、それが子どもの内的な興味に添っていないことも多々あります。

こどもの生まれもった「自ら成長する」力を押し上げていくのがモンテッソーリ教育であり、

こどもは存分に自由な中で、強制されなくとも自己を統制することができるということがわかる章でした。